ターザン山本
1946年、山口県生まれ。元週刊プロレス編集長。21歳の時に学生結婚をし、一人の女子をもうけ、34歳のときに離婚。その5年後、39歳で再婚、もう一人の女子が生まれる。12年後、51歳のとき再び離婚。現在、元家族とは一切交流がなく、独居生活中。
俺も一度だけ鬱になったことがある
柴田 山本さん。
ターザン なんだ?
柴田 日本は一応まだ世界第3位の経済大国なわけですが、鬱で苦しむ人は多いし、自殺しちゃう人も多いです。
ターザン おお、そうか。
柴田 この問題の解決策はありますか?
ターザン あるよ。そんなもの俺に聞いたらいいわけですよ。
柴田 では聞きます。ターザンさんの人生で、絶望していた、あの頃は苦しかったという時期は?
ターザン 特にない。
柴田 ない?
ターザン ない。
柴田 70年以上生きてきて、しんどかった時期がない?
ターザン ないよ。
柴田 定職にもつかず先が見えなかった20代の頃がしんどかったとか、週刊プロレスのカリスマ編集長の座を失った90年代が一番しんどかったとか?
ターザン 特にないよ。
柴田 そんな人間はいないでしょ。長い人生で辛い時期ってなある程度、誰でもあるでしょ?
ターザン そんな人間がここにいるんですよ。でもね、そんな俺も人生で一度だけ鬱になったことがあったわけ。
柴田 おお、やっぱりあった。そりゃ70年も生きてりゃそんな時期もあるでしょ。
ターザン あのね、俺が90 年代に週刊プロレス編集長のポジションを追われて没落して、1年が経った頃に家に帰ったらさ、自宅にいるはずの奥さんもペットの猫も犬もオールすべて全部きれいにいなくなってたの。
柴田 嫁さんが他の男と不倫してて、その男と夜逃げ状態で逃げていったんですよね。
ターザン そう。ある日、家に帰ったら、そこにあるべきものがすべて一切なくなって、もぬけの殻なの。そんな経験ある?
柴田 ないですし、したくもないです。
ターザン そんな状態に直面した時に、人間の心理状況がどうなるか。脳が事態を理解できなくなるんよ。
柴田 人間の理解の範疇を超えてしまう。
ターザン そこにあるのはテレビだとか、電話機だとか、机ですよというのが認知できなくなるわけ。
柴田 え? なんか怖いんですけど。
ターザン 怖いなんてもんじゃないですよ。自分の周りのすべてのものがただのオブジェクトと化して、ものを認知できなくなるの。
柴田 周囲の風景がすべてのっぺらぼう的な世界になる。それはホラーですね。それ完全に病気ですよ。
ターザン 瞬間的にものすごい恐怖心に襲われてさ、異次元の世界にグワァーっと引きずりこまれそうになったわけ。この感覚わかる?
柴田 いえ。とりあえず結婚恐怖症になりそうです。
人生も鬱も先手必勝
ターザン そこで俺がどうしたかというと、その場で自分の知り合いに片っ端から電話したわけ。ありとあらゆる人に電話して、「自宅がもぬけの殻ですよぉー! 奥さんが逃げたんですよぉー」と全員に伝えたんですよ。
柴田 自ら?
ターザン そう。先代のベースボールマガジン社の社長にも電話したもんね、俺。
柴田 なぜそんなことを?
ターザン どこからか情報が漏れて、「ターザンは奥さんに逃げられたらしい」なんてヒソヒソと噂されるのはいやじゃないか。だから、俺は自分から先に速攻で言ってしまったわけ。先手必勝ですよ。
柴田 必勝かはわからないですけど(笑)。その時点で大敗を喫してるし。
ターザン そうやってアウトプットすることで、ようやく自分の状況を認知できたんだよね。
柴田 そのときの鬱病は、どのくらい長引いたんですか?
ターザン 皆さんに電話して聞いてもらったら、治ったんですよ。
柴田 1日で?
ターザン 1日というか、その夜のうちに。
柴田 罹患から完治までが早すぎですよ(笑)。
ターザン だって治ったんだからしょうがないじゃないか。俺が鬱にかかったのは、人生でその一瞬だけですよ。でも、その経験があるから、俺は鬱にかかる人の気持ちがよくわかるんだよね。
柴田 ということは、そのアウトプットするというのが、鬱の最良の根治療法だと?
ターザン そんなことは知りませんよ。
柴田 あら。
ターザン それはあくまで、ただの一例なの。それが他の人にも効くかといったら、またまったく別の話なわけ。
柴田 えーっと……。ということは、皆さんにお伝えできるような鬱の対処法はない?
ターザン あるよ。
柴田 本当か?(笑)
(②に続く)